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東大寺での晋山式と、橋村管長猊下との思い出

 晋山式というのは、そのお寺の住職の就任披露会とでもいいましょうか。先日、東大寺で開かれた橋村公英管長猊下(以下橋村師)の晋山式は大仏殿での法要と、その横に設置された会場にて行われました。


 大仏殿には近隣の大寺院の僧侶がたや、奈良の各寺院、地元の有力者などが集い、私のような地方の小さな末寺のものは隅の方で小さく見える塔頭の僧侶方を眺めるといったところ。



 大仏殿の広い空間に散華の声明が響き、般若心経の読経には「果たして私も声を出して良いのだろうか?」と多くの参列者が恐る恐る小声で参加したことで、低い声が重なり合い広がっていきます。


 この法要の面白いところは、誰もが参加することができるという点でしょう。もちろん、椅子席座って〜ということは招待者のみですが、大仏殿の入場チケットさえあればこの法要に参列しともに手を合わせることができる。それは大仏殿の持つすべて民のための伽藍というコンセプトが見せる懐の深さではないかと思います。

 法要が終わると、今度は大仏殿の横に設置された会場へと移動し、管長猊下の挨拶など晋山披露が行われます。


 この移動も一苦労。何分人が多いことと、通常通りに参拝の方々がいらっしゃる。交通整理を行いながらの案内になり、塔頭僧侶も椅子を片付けたり、誘導をしたりと大忙しです。


 さて、今までの晋山式では、「晋山披露宴」を行っておりましたが、今回は新型コロナウイルスの対策のため「晋山披露」にとどまりました。しかし、能の演舞など参加者を楽しませる催し物があり、今までそのような伝統舞踊を生で見たことがなかったため興味深く鑑賞させていただきました。



 この他にも、薬師寺の加藤朝胤管主、奈良県知事、奈良市長、信徒代表、上司永照執事長らのご挨拶があり、多くの方の祝福をもって晋山式を終えられました。

 さて、私の父は東大寺での加行中から橋村師には大変お世話になっており、東大寺に赴く際には必ず挨拶に伺っていました。


 なので、私は橋村師には小さい頃から何度もお会いしておりましたが、私が直接お世話になったのは昨年の修二会のことです。  昨年、処世界としてこもった際には橋村師は大導師のお役目。つまり同室でした。実のところ、それまで橋村師とは直接の対話はほとんど有りませんでした。あくまで、父の付き添いでお会いするだけで個人的にお話したことはわずか。  私が加行に入るなど東大寺との付き合いが深くなった頃にはすでに橋村師は「執事長」の役職に就かれとてもお忙しくされていたためでしょう。それでも、お優しい表情と穏やかな語り口には、ご一緒すると不思議と心が落ち着く力がある方だという印象を持っていました。  そんな橋村師ですが、その人柄についての具体的なお話を聞けたのもやはり修二会で。初年度の大導師部屋での事でした。同室になった大導師の上司永照執事長(当時教学執事)から橋村師のお話を伺ったのです。曰く、なんでも完璧にこなすスーパーマンであると。  東大寺の上司師といえば、様々な場所で講演され、Youtubeの東大寺公式チャンネルでも素敵なお話をして、そして自分を厳しく律されている。私から見ればまさしくスーパーマンなのですが、そんな上司師が尊敬される橋村師と二年目の大導師部屋で同室することとなったのです。正直に申しますと緊張しました。  しかし、柔らかな物腰はどんな時も変わらず、私の処世界としてのお仕事で間違えたり忘れてしまった時も優しくフォローして下さいました。部屋の中ではもっぱら信仰についての話。沖縄のユタについてや、山岳信仰についてなど私の全く知らないお話も多くしてくださいました。

 そしてその中で初めて橋村師が椿の専門家で、学会でいくつもの新種を発表しているということを知りました。東大寺の椿といえば「糊こぼし」が有名です。二月堂の近くにある「開山堂」。その境内には美しい椿が植わっており、赤い花弁に糊をこぼしたかのような白い模様があることから「糊こぼし」と呼ばれます。



 奈良の街では、修二会で用いられる椿の造花である「糊こぼし」を模したお菓子をそこかしこの和菓子店で見かけることができますね。  昨今、巷では糊こぼしと銘打った苗木が散見されますが、椿というのは種から育てる場合は花の色などが変わってしまうとのことでした。本当に糊こぼしというのは繊細なバランスで成り立っているようです。

 では、どうすればそのままの色を残せるのかといえばやはり元の木の枝を接ぎ木したり、挿し木にしたりする必要があると。開山堂の良弁椿からの直接の接ぎ木や挿し木をしたものとなると中々あるものではありません。今だと別火坊、戒壇院の庫裏にも植わっているとのことです。(私はどこのどの木なのか全くわかっていません)  しかし、大導師さんがお持ちの苗木を分けてくださるとのこと!最初にそれを聞いたときはびっくりして飛び上がって喜びました!そういったご縁があって、今も当山の庫裏の玄関横にはまだ鉢植えに入っている糊こぼしたちが元気に葉をつけているというわけです。


 来年には露地に植えられるのでは無いか…そう思う反面植えてしまって根付かなかったらどうしよう。日当たりが悪かったり、風で折れてしまったりしたらどうしようなどの心配も。本当にどうしましょ。橋村師に相談したいと思うも、今となっては管長さん。中々聞くことができなくなってしまいました。詳しい方がいれば教えてほしいものです。  さて、晋山式といえば当山でも今から15年前の2007年に晋山式を行ったことがございます。当時管長であった上野道善長老、そして師僧の筒井寛昭長老にいたしていただき、父の晋山法要を執り行ったのです。その当時は私もまだ高校生。ボーっとした顔で法要に出仕していました。  そんな私も紆余曲折の末に住職の任についているわけですが、あまりにどたばたしていたために晋山式を行っていません。かれこれ10年経ちましたが、今更やることもないでしょう。だって大変なんですよ晋山式って。  もし、また普賢光明寺で晋山式を行うことがあるならば、それは私の弟子が住職に就くときでしょうね。はたして何時になるやら…  

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