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相模の国の良弁上人を探す④ ~大山登拝記~

執筆者の写真: 望月 大仙望月 大仙

 お地蔵様を過ぎると、ようやっと寺院が見えてくる。といっても現在では使われていないお堂だと宿坊だが、 整備されている様子がない。




 お堂の正面には「前不動明王」の扁額が掲げられている。中を覗いてみても、拝まれている様子は見られない。いつも大山寺へと参拝する前に、ここでも般若心経と不動真言を唱えている。なんだか分からなくとも、そこに信仰が見える以上敬意を持って礼拝すべきなのだから。


 ずっとお不動さまがご本尊なのかと思っていたが、Googleマップで調べてみるとこちらは「寶珠山 来迎院本堂」であるという。来迎院はその名前の通り阿弥陀如来がご本尊。来迎院はかつての大山寺の別当、八大坊及び山上寺院の菩提寺であった供養寺だったという。


 このお堂は調べてみると非常にややこしく、その歴史はこの地域の人々の信仰と深く結びつき、そしてやはり明治の廃仏毀釈によって大きく変わることを余儀なくされたお寺でもある。


 とても興味深く感じたため、今回はこの来迎院と大山に伝わる風習についてお話したいと思います。良かったらお読みください。


 大山近辺では茶湯供養、茶湯寺参りという風習があります。現在でもその風習は形を変えながら、厚木・平塚近辺でのこっているそうです。「茶湯」と書くと私も茶道をやっているため「ちゃのゆ」と読みたくなりますが、「チャトウ」と読みます。


 

日本においてお茶を飲む風習が伝来したのは栄西が始まりだといわれています。そのおかげか禅寺では現在でも臨済宗を始めとして茶道に関わる行事が非常に多い。 数年前に私は神奈川県にある大雄山にて大きな湯のみでお茶を飲むという行事にも参加せていただきました。


 これは奈良の西大寺の「大茶盛式」が有名で、他のお寺でもたびたび行われておりますね。当山でもやってみたいと思ったものですが、この疫病の流行によって回し飲みの文化も再開の目処が立ちません。あの濃茶を次の人に渡す作法は何となくカッコよくて好きなんですけれどね。



 さて、本山の東大寺でも5月の聖武祭10月のお祭りではそれぞれ裏千家と表千家が献茶をいたします。 やはり、ここ数年はご相伴に預かれないのが残念ですが、それでも大仏さまにお茶を供えるという作法は変わらず続けられています。



 修二会においてもお茶に関するイベントがあります。 あくまで別火坊の中で行われるひとつの休息のようなもので、11人の練行衆のうち上位の四職と呼ばれる四名が皆にお茶とお菓子を振る舞うという時間が存在します。しかし、これは悔過法要とは関わりない行事ですので、後世になって行われるようになったのでしょう。


 現在では「ちゃのゆ」の文化が残っておりますが、「チャトウ」の文化はどうでしょうか。宗教儀礼の中でお茶が使用されたかどうかは、法会に使用した物品の記録を見ればわかる。その中でも記録が残っているのは興福寺の極楽坊で行われた逆修の中でお茶が使用された記録がある。転読のために必要とされたそうだが、果たしてどのように使われたのであろうか。他には法隆寺では雨乞いの儀礼において使用された記録がある。これもどのように使用されたのか非常に興味深い。



 上記のような法会でもちいられる一方で、供養の際にお茶を使用するケースも多く、特に室町時代以降ではに足利尊氏を始め故人の遠忌法要などで献茶や供茶が盛んに行われている。弔用茶とも呼ばれ、このような風習は上から下へと流れるように、徐々に庶民へと流れていった。


 その中でも現在まで伝統として「チャトウ」の供養を残している数少ない地域がこの大山近辺であり、「茶湯寺参り」なのだ。この地域では昔から人が亡くなられてから百日目、ないし百一日目に大山の不動明王にお参りする風習があったそうです。


 現代では百箇日の法要を行うところと行わないところがありますね。この地域では四十九日より死出の旅に出た故人は、百日目になると先祖の仲間入りをし、百一日には一度帰ってくるのだとされます。


 先祖の仲間入りをしたことを報告するためか、百一日目になると大山寺にて故人の法号(戒名・法名)を書き、ご供養する。それが終わってから来迎院にて茶の湯が振る舞われたと言います。このことから、来迎院は「茶湯寺」と呼ばれたそうです。


 また、大山に参詣しに行くと「途中で亡くなった人とよく似た人に必ず会える」という伝承があります。これは大山が霊山として信仰されており、山中を人ならざるものの場として捉えていたことの現れでしょう。


 大山の近くに住む人にとって、亡くなられた方が先祖となり、大山にお参りに行けば会えるというのは自然な感覚だったのかもしれません。この山中他界の考え方は修験の信仰の土台ともなっておりますし、このような伝承は大山に限ったことではありませんね。


(続く)

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