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執筆者の写真望月 大仙

処世界さんの日記(拾二)

令和二年二月二十一日(前篇)



 この頃になると曜日の感覚が全くなくなっています。日記に書いてある曜日で今日が何曜日だったのかを認識できるのみ。テレビも新聞も無く、外界から完全に遮断された世界は極めて平穏だが、刺激がないのも事実。作業は試別火のうちに終わっているため、時たま縁側で座禅を組んだりともはや隠居の身。


 朝、ゆっくりしていると七時過ぎに仲間さん達が来てしまう!「処世界さ~ん、失礼しまーす」とやってくる加供奉行さん。どうにも今日は普段とはタイムスケジュールが違うらしい。というのも、この日は小観音さんの神輿洗いという仕事があるそうな。そのため堂司と平衆は早めに食事をとり、二月堂へと向かわねばならぬ。


 そんなわけで平衆は七時十五分には朝食を摂る。起こされてご飯を食べねばとゴザ持ち、いつもの朝食の席へと移動するとそんなことを駈士さんから教えられる。そもそも、いつものちゃぶ台ではもう食事は取れず、自室にてぼっち飯であるとのこと。スゴスゴと退散。  しばらくすると仲間さんがたが朝ごはんを早めに持ってきてくださる。どうにも急かしたようになってしまったらしい。ちょっと申し訳無さを覚えつつ、大好きなタクアンをポリポリとつまむ。さて、食事だが今までは院士さんが持ってきてくださったが、この日からは仲間さんが。ちょっと寂しさを覚えます。


 さて、平衆が九時半ごろに戻ってきたら今度は「衣の祝儀」である。衣の祝儀とは何か?修二会の本行で着る「重衣」と呼ばれる麻でできた黒い衣で、修二会で特徴的な三角の襟を立てた僧綱襟の仕立ての着物。これを授与される儀礼であるとのこと。直前になってその際に節のついた「三礼文」を唱える必要があるとのお話。今になってに言われてもどうにもならない。仕方ないので、衆之一さんとお司に唱えてもらうことに…。

 こういう細かなところで、「あ、これ知らないんだ」となってしまうのが末寺の辛いところ。そうです何も知りません。このブログを書いているのは、一つは皆さんに修二会をよりよく知ってもらうことと、もし今後末寺から参籠する方がいらっしゃったら参考に成るかもしれないとの思いがあります。


 先日の放送もあり、修二会に参籠してみたいという野心のある若者は増えつつあるというのをひしひしと感じているのです。将来が楽しみだ!


 この「衣の祝儀」ですが、本来であれば、練行衆が総別火に入った後に大広間で行うのです。しかし、新入のみすでに総別火に入っているため前倒しで一人だけ行われます。三礼する際には本堂では柄香炉を持ちますが、ここにそのようなものは無いため、お箸を柄香炉に見立ててこれを行う。少し面白い光景ですね。


 この重衣ですが、私が使用するのは東大寺からお借りしたものでかなり年季が入っています。わざわざ仕立てるには少々金子がかかることから末寺の者はたいていレンタルという形をとります。また、本山の者であっても処世界や権処世界のうちは自分の重衣を仕立てることは無く東大寺からのレンタルを選択します。


 なぜなら、それだけ下っ端は動き回り、汚れる仕事が待っているからです!特に処世界は毎日の掃除や準備でホコリや抹香、そして油まみれになっております。故に借り受ける衣も長い年月、処世界が用いてきただけあってその重みが感じられる仕上がりになっております。ちょっとほこりくさいかも?いやこれが修二会の香りなのかもしれない。


 この衣の祝儀では衣を受け取るとまず一度着て、それから改めて脱ぎたたみ、長押の上に引っ掛けておくのです。これは本行中も同じで、重衣は常にぶら下がっておりいつでも着れるようにしてあるのです。


たたみ方なのですが、下には袴を履いておりますので、まずは袴を畳んで、重衣でそれを包むようにします。

 そして帯で縛り、ちょうちょ結びのようにして縛ったらそれを引っ掛けて吊るします。この際に、帯の後部にある紋が書かれた白い部分が見えるようにします。



 修二会では持ち物を区別するために、自身の持ち物には必ず紋を着けます。今回私は筒井長老から全てをお借りしているので、長老様の御紋を身に着けております。これは別に家紋や寺門である必要はございません。長老様の紋もご自身で考えられたと言いますし、実はそれぞれ個性があるので気に成る方は練行衆の差懸に書かれた紋にも注目してみてください。


参考)差懸の紋




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