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執筆者の写真望月 大仙

処世界さんの日記(四拾)

令和二年三月四日



 朝、大導師さんから取材が来るよと言われる。聴くところによると新入の称揚について新聞各社からの取材があると云々。それは大変だ!身だしなみを整えねばと湯屋小袖を纏って髭を剃る。以前にもお話しましたが、自らに刃物を当てるには穢れを恐れ、湯屋小袖をまとう決まりです。


 10時ごろに奈良新聞、読売新聞、産経新聞、朝日新聞の記者の方がいらっしゃり、参籠宿所の奥の方で取材を受けます。記者の方というのはインタビューのプロですから、私が気持ちよく喋れるような聴き方をしてくださいます。こうなると調子に乗るのが私の性質ですからいらんことまでペラペラと。そうしているとたまたま和上さんが通りかかり「なんや人気者やな!」と。気恥ずかしくなりながらも、自身がなにをどう感じていたのかを中心に話します。昨日の今日でだいぶテンションが高くなっていたのでしょうね。


〈参考・当時の記事〉


 11時頃になると当山の信徒の皆さまが諸堂の参拝を終えて改めて挨拶に来てくださった。相変わらず参籠宿所の入り口での挨拶になるが、皆さん一様に笑顔で、古くからの方などは昨日の行法を勤め上げているのをみて泣いてしまったと言われるほど喜んでいらした。支えて下さる皆様がいて、初めてこの行が成り立っているのだと強く実感します。


 「せっかくなので日中の行法も西の局から見ていってください」と。そう、この日の日中が私にとって初めての五体投地。皆様の前で良い姿を見せようと張り切ります!しあkし、そういう時はミスが起きるのは世の常なのでしょうか?


 五体投地の作法ですが、まず「南無観」の宝号の途中に席を立ち、時導師の合図で礼堂へと赴きます。五体板の前で待機し「南無帰命頂礼大慈大悲観自在尊」「慚愧懺悔六根罪障」の声明に合わせて五体板に身体を打ち付けます。その後は、十一面観音小呪を七遍唱えるたびに五体を打つ。これは和上からの合図があるまで続きます。合図があったら、決まった回数を打って内陣へと帰る。これが五体投地の流れです。


 さて、この五体の打ち方ですが、特に決まりはありません。ですから、練行衆一人一人が自身の思うように五体を打ちます。特に五体の名手とされるのが南衆さんで、全身を使いまさに身をなげうつような五体投地は他の者には真似できません。


 さぁ、日中の行法は滞りなく進み、さぁ出番だと、胸を張って礼堂へ。声明に合わせて右膝と右肘を使って全身を五体板に叩きつけます。これが痛いようで見た目ほどは痛くなく、されどやはり痛い。他の方に聞いても「そうはならん」と言われるので、これは私のやり方が悪いのかもしれませんが、振動が脳転を揺らすような心地がしてしびれる。たまに息が詰まって心臓が痛むような思いをすることもあれば、本当に能が揺らされたようでぼーっとしてしまうこともあります。しかし、一心に五体を打ちつけることに変わりはありません。そこには全ての罪障を懴悔し、人々の幸福を祈るという決意さえあればよいのです。


 さて、声明に合わせた五体を打ち終えると真言を唱えるわけですが、その際には念珠を繰り、数を数えるわけです。いちいち念珠を持ち直していては時間がかかるから五体を打つときも念珠を持っていた方が良いよと先達からアドバイスを頂いた。なるほどそれはそうだと納得し、いざや実践。


 オンマカキャロニキャソワカ

 オンマカキャロニキャソワカ

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 オンマカキャロニキャソワカ

 オンマカキャロニキャソワカ

 オンマカキャロニキャソワカ…ズダーーーッン!


 哀れ念珠はちぎれ飛び、玉は礼堂の床を転がっていきます。全身に力の入る瞬間。両手に念珠を持っていればそうなるのは自明の理でした。


 一瞬どうしたものかと固まりますが、実は行中に念珠が切れた時のために練行衆は袈裟の一部に念珠をくくりつけています。急いでちぎれた念珠を袂にしまって念珠を入れ替え、五体投地を続けます。後から聞いた話では、真後ろにいた父を始め、信徒の方々もこのことには気づかなかったそうです。堂内で正面に見ていた処世界童子も後になって「そうだったんです?」と首をかしげておりました。何かイレギュラーが起きても、慌てない慌てないのが肝心ですね。


 日中が終わって、掃除の時間。先輩方に一言声をかけて念珠の珠を捜索。処世界童子さんと一緒に探します。幸いなことにほとんどの珠が見つかり、すぐに修理をお願いすることができました。めでたしめでたしです。処世界さんはおっちょこちょいなので、わりとこのようなミスをこれからもやらかします。今年も三年目とはいえ怪しいものです。そのようなお話は自坊での法話会などでお話できればなと思っています。


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