処世界さんの日記(四拾四)

令和二年三月七日



 適当な頃合いを見て処世界部屋から堂内へと戻る。その際も小観音さんに礼をしなければならない。礼の仕方を間違えて、注意されたりしながら内陣での準備。といってもやることはほとんど終えている。あとは他の練行衆を待つのみ。


 走りまでは常のごとく、であるが三回目の走りということもあって気が抜けたのであろう。走りの行法では、それぞれの練行衆が内陣から礼堂へとバッと躍り出て、素早く五体板に3回身を打ち付けてバッと身を翻し内陣へと戻るという所作を行う。


 この時はもちろん差懸を履いていないので、足袋の状態である。そうすると何が起きたのか?そう、勢い余ってすっ転んだのである。この日は先述したが聴聞の方が多く、娑婆の僧侶も揃われている。その目の前で派手にすっ転び、ぐるんと受け身をとって素早く立ち上がり、「何も有りませんでしたよ?」という風を装って内陣へと帰っていく。いやぁ、正面の長老さん達もビビってらしたなぁ。急制動は厳禁である。


 これが終わるといよいよ礼堂に出ている小観音さんを内陣の正面へと移動させる。「御入」だ・正面の壇供や荘厳を素早く片付け、小観音さんを迎える準備。処世界は鈴・柄香炉・ほら貝を持って大導師のあとに続く。処世界は基本的に荷物持ちだ。


 堂内の回廊をめぐる。改めて、格子の外側から内陣を眺めたが想像以上によく見えるというのが私の感想だ。逆に中から外は見えないので少々驚いた。北側から周り、南側の戸から小観音さんの神輿を内陣へと入れる。


 書いてしまえばそれだけなのだが、暗がりの中で行われる様子はなんとも不思議なのだ。それが終わると後夜の時なのだが、ここで処世界・権処世界の苦行が始まる。その名も「連れ五体」。この時だけは通常の五体と違う。内陣の東側の格子に腕を突っ込み、上半身を固定する。そしてレッグレイズ。腹筋と勢いで足を上げて、思い切りかかとを床に叩きつける。重衣の重さもあって中々負荷の強い筋トレだ。


 これが非常に痛い。まず、格子の角が食い込んで腕が痛い。振り下ろすとかかとが純粋に痛い。精一杯音を立てるように力を込めるが、込めた分だけ痛いのだ。通常の五体と同じくオンマカキャロニキャソワカと真言を唱えるが、この時の真言は痛みに耐えるうめき声のよう。


 しかし、なぜこのような作法があるのかわからない。小観音さんは大きな音が嫌いだという方もおられたが、それならなぜこの時だけなのだろう。不思議だ。11回ほど行っただろうか?和上さんの合図で五体も終わりを告げ、足を引きずるように自席へ帰る。今でもこの日はちょっと憂鬱なのだ。


三月八日


 朝には娑婆が「上七日」が終わったことへのお祝いを述べにいらっしゃる。この日からは一日一日がだいぶ早く感じる。やはり折り返し地点を過ぎると気分が違のだろう。この日は食堂作法の前に下七日の授戒作法がある。これは一日に行ったそれと同じだ。これも、かつては下七日から参加する練行衆がいたためではないだろうか。改めて和上から戒を授かり、気を引き締めて残り一週間の行法に臨む。



 さて、下七日になると食堂の後に行う「生飯(さば)投げ」が新入にも解禁される。これは白米を鳥獣に布施する作法だが、新入の処世界は上七日の間これをしない決まりだ。今までは黙って見ているだけだったので、心待ちにしていたのだ。今日もオーディエンスはそこそこいらっしゃる。(結構人気のイベントなのだ)「よっしゃ!遠くまで飛ばしたるで!」と気合を入れて初めての一投!そして処世界さんの腕から放たれた生飯は目の前に立てかけてあった松明の竹にあたり足元に落ちた。それは計算してなかったなぁ。


〈参考 生飯投げの様子〉

http://www.asahi.com/special/gallery/todaiji_omizutori/20130704P001367AR.html


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