令和二年三月一日
時間を見ながらの休憩。と言ってもほとんど時間がないんで気は休まらない。18時を過ぎた頃に内陣へ。処世界の役どころに、灯明の油の管理がある。2月18日の「油はかり」で処世界が奉納された油を中に入れるのを確認するのもそのためです。
内陣へ入ったならまず正面にある「常燈」の油の確認。修二会の燈明は全て油と昔ながらのい草を用いた灯心からなる。この灯心が油を吸って火を灯すが、灯心自身も少しずつ燃えていき、徐々に短くなる。定期的に灯心を引き出す必要があります。
〈燈明についての参考〉
神灯などの小さい灯明は、この灯心を2本ほど用いますが、正面の常燈は何本も束にしたものを複数用います。なので消費も早い。気をつけないとすぐに油がなくなってしまいます。そうして、油のチェックや、掃除などを行っていると18時30分頃に加供奉行が堂内にやってきて「時香の案内!!」と叫ぶ。
それに対して「三寸!」と答えるのが通例となっております。この三寸というのは、おおよそ30分のことで、この案内を受けて内陣にある「時香盤」と呼ばれる時計代わりのお香に火をつけます。時香盤は37センチ四方程度の大きさで、敷き詰められた灰にくぼみを作って抹香をお香を道のように置いてあります。そしてそのお香がどれくらい燃えているかで時間を測るという代物。お香の道の途中には「初夜」「半夜」などの文字が刻まれた杭を立て、今どのあたりの時間なのかを見ることができます。
今でこそ時計を簡単に入手することができますが、昔は今何時なのかを見ることは難しく、このようにしてタイムスケジュールを管理していたのでしょうね。今ではその作法だけが残っているのです。
ちなみに、お香に火を付ける方法ですが、火舎香炉や柄香炉の場合、線香に火をつけ、盛ったお香の上においたりするのですが、内陣に線香などありません。では何を使うのかというと「つけたけ」と呼ばれる3センチ角で長さ10センチほどの四角い木片です。ヨノミの木を腐食させたもので、よく乾燥しており、油に付けると染み込むように吸っていきます。それに火を付けると、とても良く燃えます。それを「時香盤」にある初夜の杭のちょいと手前に置いておくとうまい具合に火がつくといった塩梅です。
そうして、内陣の確認をしていると18時55分ごろに再び加供奉行が走ってきて「用事の案内!!!」と大きな声を張り上げる。この時処世界は、礼堂の鐘の下で挨拶を受けねばならないのですが、何分初めてのことでテンパった処世界はまだ内陣で支度中。慌てて内陣からのお返事「おう!!」これには加供さんも苦笑いだったのではないでしょうか。
つぎの案内は待ち構えておかねばと準備を終えた処世界さんは礼堂にて加供奉行を迎え撃ちます。
タタタタタ
「出仕の案内!!!」
「承って候!!!」
タタタタタ
ゴーンゴーン!………ゴーーン……
出仕の案内を聞いたなら処世界は礼堂にて鐘をつきだします。この流れはお松明を二月堂近くて見に来られた方には馴染みがあるかもしれませんね。
さぁ、ついに初夜上堂です。修二会名物「お松明」。このお松明は上堂する練行衆の足元を照らすためにあったと言われますが、徐々に巨大化し今では童子さんたちの見せ場となっていますし、参拝人だけでなく遠くからも見ることのできるその炎は奈良の人にとって特別な灯りとなっていることでしょう。
とはいえ、処世界さんはずっと堂内におりますゆえ全く観ることができないのですが。パチパチと火の爆ぜる音。権処世界の上堂です。ガタガタと差懸を鳴らしながらやってくる権処さん。「お願いします」と鐘つき役を任せ処世界さんは内陣へ。四方を礼拝し、その後は内陣をぐるぐると歩きながら他の練行衆の上堂を待ちます。すると、中灯さんを初め一人、また一人と練行衆が内陣へと入ってきます。
全員が揃い、和上さんが礼堂に入ると中にいる練行衆は一斉に走り出し、最後に一飛。
ダン!
この大きな音は二月堂の外まで聞こえているのではないでしょうか?さて、これを聞いて堂司以上の四職が礼堂から内陣へと、そして権処世界以上で当番の練行衆が妙法蓮華経の読経を始め、いよいよ初夜の行法がゆっくりと始まるのです。
Comments