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処世界さんの日記(参拾六)

令和二年三月一日



 初夜の行法。初夜の行法は六時の中で最も長い。それは他の時の行法がこの初夜を基準としているためだ。だからこそ省略が少なく、全体として丁寧な行法になる。この日、初夜の時導師は北二さん。力強いお声で全体をリードされる。


〈参考・初夜の悔過〉


 行法が始まる直前に堂司からハゼ(散華用の花)が入った華籠を渡される。行法の途中にある散華行道のためだ。しかし、散華行道とはなんだろう?と処世界さんは混乱しています。


 光明熾盛(こうみょうしじょう)~から始まる散華行道の声明。実は、次第には頭の部分。すなわち「光明熾盛」「願以此功」しか載っていない。なので、どのような節でお唱えすればよいのかは口伝。


 またその時、どのように動くのか。何をすればよいのかも事前に稽古をつけるということもない。つまり、3日の本番までに現地で「見て覚えなさい」ということなのです。


〈参考 初夜の行法 散華行道〉



 散華行道の経文は以下のとおり


光明熾盛照十方 摧滅三界魔波旬 抜除苦悩観世音 普現一切大神力(繰り返し)

願以此功(徳) 皆供成仏道 香花(供養仏)


 実は修二会のパンフレットにはこの経が載っております。(受納所などで手に入ります)後日、私は参籠宿所でそれを参考に口ずさんで練習したものです。修二会では頭で考えるより、身体を使って慣れていくことを求められることが多い。


 なぜなら、口で説明してもわからないのです。内陣がどのような場所であるのか、どこに何があるのかはまさに百聞は一見にしかず。そして、一つ一つの動きについてどのように動くべきなのか、それを頭で考えるより身体で覚える。伝統芸能や職人技のようなものと考えたほうが良いのかもしれません。


 ちなみにこのハゼですが、米を炒った小さなポップコーンをイメージしてください。米を爆ぜさせたから「ハゼ」と呼ばれるのかもしれません。それは小さなジャスミンの花を模しているとされ、十一観音の経典に依拠します。


 それが華籠と呼ばれる竹でできたお盆のような花入れに大盛りに盛られており、バッサバッサと大いに撒きます。そうするとまるで小さな花が床に敷き詰められたようになる。それはまさに観音様を荘厳するための散華です。


 しかし、この時はまだ自覚していませんでした。それが処世界にとってどのようなものなのか…。


  晨朝の行法を終え、参籠宿所に戻ることにはヘトヘトです。特にこの日は本当に多くの礼拝を行うため精神的にのみならず、身体的に疲れが出ます。特に初めての行法で右も左もわからず翻弄される処世界さんにとってはとても長い一日でありました。


 参籠宿所の部屋に戻ると、すでに大導師さんは重衣を脱いで待っておりました。私もすぐに重衣を脱ぎ、外のたらいで顔を洗います。タオルで拭うと頭も顔も真っ黒。鼻の穴の中まで真っ黒です。足袋も黒くなり、これは使い潰すしか無いと思うほど。これが毎日続くと思うとこれからの二週間が本当に長いもののように感じられました。


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