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執筆者の写真望月 大仙

権処さんの日記(二拾一)


 独特な節回しで初夜の始まりを告げる読経。これは処世界以外の平衆が務めるお役目である。


 初夜が始まるまでの流れを大まかに説明すると、まず平衆の七人が自席に入る。それから四職が順番に内陣へ入堂し、東西での三礼を行う。これも下郎順になるので、まずは堂司から。


 堂司が東西での礼拝を終えると、南座の練行衆に一礼にて合図をする。ここから読経が始まる。読経は七種類あり、一週間で一周する。すなわち1日と8日は同じ経を読むことになる。


 読経の経本は1日毎に区切られており、さらに初夜と後夜に分割される。そして、初夜は4人で分担して読むことになっており、どこを誰が担当するのか一から四まで番号が振られている。


 なので毎日一は誰、二は誰、三は、四はと決められている。この担当を決めるのは衆ノ一の仕事で、時数表にもそれは記載されている。


 ただし、上の役職から順番に当てることが通例となっているので、役職が決まった段階でどの日にどの節を担当するのかはだいたい見当がつくのだ。もちろん例外もあるが。


 そうして、3月1日は「妙法蓮華経序品第一」から始まる法華経の旋律。それをバックミュージックのようにして咒師以上の四職も入堂する。和上が自席に着くと、堂司と処世界は立ち上がり諷誦文を大導師に手渡す。


 これも昨年までは私がやっていた。それを座って眺める。このように見えていたのだなと。行法はつつがなく進行していくのだが、今まで私がやっていたお役目を処世界さんがこなしていくのはなんだか胸がほっこりするような気分になる。


 行法の中で南座に座って初めて気づいたことがある。一つは悔過作法における時導師と和上とのアイコンタクトの様子だ。自分でも行っているが、諸先輩方の作法をより間近で見ることができるというのは新鮮で、とても勉強になった。


 このようにすれば良いのか、と四年目にして気づくことも少なくない。また、北座からは見えなかった動きも見ることができた。特に驚いたのは大導師作法での三礼である。全く気づかなかった。


 場面は初夜の行法が終わって後に貝が吹き鳴らされるその後半部分のことだ。大導師は柄香炉を手に取り、小声で三礼文を唱え始めた。これは処世界の座席からは見えないし聞こえない。


 三礼文(一般に三帰依礼文)とは、修二会においては日中・日没の行法で聞くことのできるもので以下の偈文になる。

「一切恭敬 自帰依仏 当願衆生 体解大道 (発無上意)

 自帰依法 当願衆生 深入経蔵 (智慧如海)

 自帰依僧 当願衆生 統理大衆 一切無礙」

※修二会において()内は省略

 これは華厳経浄行品の一説で、他宗でも多く唱えられている偈文である。


 三礼というだけあって柄香炉を手に三度立ち上がり礼をする。この三礼は局から聴聞している場合も、北からは見えないかもしれない。また、ほら貝の音もあり、南の局にいても三礼文の文言も聞き取れないのではないだろうか。皆さんどうでしょう?聞こえてますか?見えてますか?


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