令和二年二月二十五日
この日は、全体的に弛緩した雰囲気が流れる。
何故ならこの年(令和2年、2020年)は閏年。修二会の全行である別火は二月二十日に入ることとなっております。これは閏年になっても変わりません。なので、閏年の修二会は一日多いのですね。だからといって作業が増えるのか?というとそうでもない。修二会の準備である別火は長年月を懸けて最適化されてきていますので一日伸びるということは丸々一日余裕ができるということになります。
こうなると処世界さんは自主稽古の時間が増えることになりますので、ここぞとばかりにお稽古に励みます。別火坊は戒壇院の庫裏でありますが、隣には千手堂がございます。最近ですと鑑真和上像のお厨子が新調され、戒壇院の工事と相まって公開され、千手観音像と素晴らしい色彩のお厨子を見ることが出来ます。
堂内は中央に千手観音、右手には鑑真和上。左手には愛染明王が安置されています。この当時にはまさか愛染明王を普賢光明寺に勧請することになろうとは思ってもみなかったので特に注意することもありませんでしたが、鎌倉後期~南北朝期の仏像らしくキリッとした険しいお顔が心を引き締めてくださいます。本来朱いはずのお体はすでに色あせており、昔は愛染明王って青っぽいんだなぁと誤解していたものです。
〈千手堂の案内と御開扉のニュース〉
さて、この千手堂ですが修二会期間中は練行衆の稽古場となります。この日は南衆さん(南衆の一)が籠もってお稽古。咒師さんもよく籠もられていたと他の練行衆からのお話。私も空いたら中でお稽古したいなと思いながら遠慮して縁側でボソボソと…。
この千手堂は他にも様々な用途で使われ、仲間として思い出深いのは紙衣の反物作りです。仙花紙をシワクチャにするだけでは紙衣の材料は完成しません。それらに寒天を塗り防水性を高め、糊付けをして一本の反物にします。
この作業は仲間が行い、寒天を塗って乾かす作業は千手堂で行われます。なので、千手堂のお堂には百枚以上の仙花紙が敷き詰められるといった状態に。表がどっちだ、これは誰のだなどと喧々諤々しながらの作業。新入りの仲間さんはてんやわんやになりながらの大変な作業です。
処世界日記を書写していると「処世界さーん」と仲間さんの声。噂をすれば、ではありませんが紙衣の反物が出来上がったとのこと。いつの間に作業していたのだろうか?外に出れず部屋にこもっているため「隣は何をする人ぞ」状態です。
しかし、このひとり暮らしも明日まで。明後日からは他の練行衆たちと同じ部屋で寝起きすることになるのだ。そう考えるとちょっとドキドキ。ふすまの向こうの声を聞きながら早々に床に就く処世界さんなのです。
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