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執筆者の写真望月 大仙

処世界さんの日記(拾五)

令和二年二月二十三日(前篇)



 この日は晴れ。今日は花ごしらえ。大広間にて作業をする。そのため、お布団を畳んで置かねばならない。なぜかって?試別火の間、北の練行衆は大広間に布団を敷いて寝ており、布団は敷きっぱなし。ちなみに本行になると咒師以下の練行衆が大広間にて寝ますので結構ギチギチ、テトリス状態になります。


 そんなわけで、大広間を使う際には布団をしまわなければならない。どこに?そりゃあ上壇の間ですよ。私の部屋の半分は布団に占拠されるわけで、朝から大忙し。自身の荷物も整理しておかねばなりません。自分ひとりだからと、スペースを贅沢に使っていていたのが仇となりましたね。


 この花ごしらえとはなんぞや?と思われるでしょうね。修二会では本行中、内陣に椿の花をお供えします。しかし、本物の椿の花を供えたのならばあっという間に枯れてしまう。そこで、紙で椿の花を作りそれをお供えするのです。この椿は紅と白の彩りで、「糊こぼし」と言われます。


 「糊こぼし」というのは東大寺の開山堂にある椿のことで、赤い花に糊をこぼしたように白い斑点ができることからその名がつけられます。開山堂の入り口から垣間見ることができますが、実は練行衆になるとその花を見ることができないというジレンマがあります。



 当山でも、今年の修二会満行後にいただきまして、現在すくすくと育っております。もう蕾を付け、冬の到来を今か今かと待ちわびているようです。なかなかに気が早い。2月の終わり頃に当山に来られる方にはお披露目できるのではないかなと。私は見れないという可能性も(汗)


 さて、そんな糊こぼしですが奈良の方の多くはお菓子の印象が強いのではないでしょうか?(知らない人は検索してみてください。お菓子しか出てきません笑)このお菓子の糊こぼしの元になっているのが修二会で使われている糊こぼしなのです。


 花の中心にはタロと呼ばれる木製の芯が入っており、これはタラノキを削ったもの。黄色く染めた傘紙をタロに巻きつけてオシベを、朱と白に染め上げた仙花紙で花びらを表現しており、毎年350個ほどが作られます。



 この花ごしらえの様子は毎年新聞社の方が取材に来られているので、記事などを探すとその様子を見ることができます。今年は残念ながらコロナ対策のため練行衆以外の方が入ることができなかったのですが、代わりに東大寺が誇る凄腕カメラマンが撮影してくださいました。



 さて、大広間にやってきたものの一体何をすればよいのやらと混乱の中。処世界さんは別の仕事があります。Instagramの写真でも私が端っこの方にいるのがわかりますか?これは「燈心揃え」といって、修二会期間中に用いる燈明の灯心を作るお仕事なのです。これに従事するの毎年は「和上」「処世界」「小綱」「加供奉行」の四人。しかし、令和二年の修二会では「堂司」が担当しておりました。


 お司の指示のもと、処世界日記に書かれている灯心の数を揃えます。修二会では昔ながらの燈明が使われていることは2/18の日記で書きましたが、油だけでなくその灯心も昔ながら。細藺(ほそい)というイグサの一種の茎を用います。これもご寄進いただいているとのこと。


 長い茎を日記のとおりに適当な長さに切っていきます。ここで用いるのは断ち物用の包丁で、以前に紙を切るために用いると紹介したものです。お司がバンバン切っていくので、それを細く切った反して束にして、灯心箱と呼ばれる箱に用途ごとに入れていきます。これがなかなか地味な作業。花作りのほうが楽しそうだし、記者さんたちが写真を撮るものあちら。そりゃそうだ。


 しかし、修二会の幻想的な世界を作り上げるには必要な作業です。とはいえ、その時の私はそれが一体何なのか。どのように使うものなのかも全く想像することもできません。何だこのそうめんみたいなのは…どう使うんだ?と頭の中で疑問符が浮かびながらの作業。おそらくこの日記を読んでおられる方でも、実物だけを見せられたら何に使うのかわからないでしょう。




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