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処世界さんの日記(十)

執筆者の写真: 望月 大仙望月 大仙

令和二年二月二十日(前半)



 この日のお目覚(おめさ)は八時と遅い。他の練行衆が別火坊へとやってくるのは19時ごろなのでそれまでにお引越しを済まさなければならない。


 修二会は3月1日からの本行の前に、9日(閏10日)間に渡る前行として「別火」の期間を設けることは以前にもお話しましたが、実は「別火」には「試別火」と「総別火」の二種類があるのです!


 前半の「試別火」は「試み」の「別火」。世間から完全に隔離されるわけではありません。東大寺の塔頭の僧侶がたであれば、寝食は別ながら自坊に戻ることもできますし、本坊でお仕事をすることもできます。古くは自坊で試別火を行い精進潔斎をした事もあったようです。(ただし今年、つまり令和三年は完全隔離となり全く別物でした)


 私も、荷物を置いている華厳寮へ赴いて洗濯をしたりと多少の自由はあったのです。しかし、後半の「総別火」はわけが違います。別火坊から外に出ることは全くできなくなります。そしてそれは総別火以降、本行の終わりまで続きます。


 通常であれば、総別火は26日より始まりますが、新入の練行衆はこの時点で試別火の日程を消化しているため20日より総別火に入ります。そうなると、試別火の練行衆とは衣食住すべて異なる生活になるのです。


 一人別火坊から一人総別火へ。今までは広間で悠々と生活していましたが、今度は一室に一人閉じ込められてしまうのです…


 お引越しは10時頃から。まずはお掃除。これから7日間お世話になるお部屋の雑巾がけから。今年からリフォームされたお部屋は非常に綺麗。特に!立て付けが良くなったことはすべての練行衆が歓喜したといいます。


 お昼を食べると、手向山八幡宮から宮司さんがいらっしゃり、カマドを始めとして「火」を扱う場所のお祓いを行って行きます。仏教と神社、神仏がともにある「修二会」の姿をここに見ることができます。「火」を扱う場所を次々と、お風呂の給湯器に至るまで清めていきます。今まで私が入っていたお風呂は清められていなかったのだろうか…?


 私が元いた場所には次々と練行衆の荷物が童子さん達の手によって運び込まれてきます。今までの静寂な空間が嘘のよう。それを尻目に処世界は自分の部屋に引きこもりその時を待つのだ。


 15時。いよいよ総別火入り。そのためにはまずお風呂に入る。そして、衣体も今までとは異なる。今までは白衣に巻き袴という出で立ちであったが、いよいよ「紙衣」の出番です。また、総別火以降の練行衆はお風呂に入る際には絹でできた「湯屋小袖」を羽織る決まりがあります。垢を落とす、髭を剃る、爪を切るなどの行為はこの「湯屋小袖」を羽織っているときにしかできません。


 もちろん、そんなことを知らない処世界さんは朝っぱらからPHILIPSの電気シェーバーを堂々と使い、注意されるのです。(完全に頭から抜けており二年目も同じことをやらかしています)


 修二会では「動物製」のものは極力用いません。これは最初の方の日記でも「おふとん」のお話で書いたと思います。同様に「白衣」や「下着」もその制限があります。もちろん、そんなことは知らない処世界さんは「毛」の入った白衣を持ってきておりますからさぁ大変。新しい白衣まで注文する羽目になりましたとさ。このあたりの追加購入は意外と高く付く…(泣)



 清まったお風呂に入った私は心身ともに清浄なり。紙衣を着て、テシマと呼ばれるゴザを持ちます。これ以降、このゴザの上でしか座ることはできません。そして、結界された中でないと地面に足を着くともできないため移動する際には常に草履を履かねばならない。


 なので、練行衆はどこに行くにもゴザを持ち歩く。そして、白い衣を纏ってゴザの上にちょこんと座る様子はさながら罪人。とは南衆さんの言葉。後年帯(紙でできた帯・妊婦帯として用いると安産のご利益があるという)を締め、帯に念珠を掛け準備よし。後は黙して座すのみなり…



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